【山岳遭難】高齢者は注意!今すぐやるべき遭難対策

山岳遭難お役立ち

登山をしていて最も気をつけなければならない事、それは遭難です。道迷いや怪我だけに限らず、病気を発症した時も含め、自力で山を下りられなくなった時点で遭難となります。自分は大丈夫、低山だから大丈夫と安心するのは禁物。どんな山でも遭難の可能性はあり、どんなに経験を積んだ熟練者でも遭難することはあるのです。自分の仲間や大切な人を悲しませないために、どのような遭難対策をしたらいいのかを知っておきましょう。

山岳遭難の概況

全国では毎年どれくらいの山岳遭難が発生していると思われますか?警察庁では1年ごと、および夏期に山岳遭難発生状況を発表しています。ここでは令和3年から過去10年に遡って、山岳遭難の実態を深掘りしていきます。ご興味のある方はご覧ください。(参考文献:令和3年における山岳遭難の概況 警察庁生活安全局安全企画課

山岳遭難発生件数と遭難者数

出典:警察庁

過去10年間の全国の山岳遭難発生件数は、毎年増加基調で推移していて、令和2年には一旦減少したものの(新型コロナによる自粛と思われる)、令和3年には再び増加し、発生件数は2635件(前年比+341件)、遭難者数は3075人(前年比+378人)となってしまいました。うち、死者・行方不明者は283人(全体の9.2%)、負傷者は255人(全体の8.3%)、無事救出者は1635人(全体の53.2%)となっています。

無事救出された割合が半分って少ないね。残りの半数の方は、なんらかの怪我を負って搬送されたり、行方不明のままであったり、還らぬ人となってしまったことになるんだね。

毎年、約2000件も遭難が発生しているのには驚いたわ。最近は登山ブームで山へ登る人が増えているようだから、今後もさらに件数が増えるんじゃないかと心配だわ。

表はありませんが、令和3年の都道府県別の発生状況は、ワースト1:長野県(257件)、ワースト2:北海道(197件)、ワースト3:東京都(157件)となっています。次いで、神奈川県(135件)、兵庫県(126件)、富山県(104件)と続きます。登山人口の多い県、難易度が高い山、気候が急変しやすい山などが要因となっている気がしました。

目的別山岳遭難者

出典:警察庁

遭難者3075人について目的別に見てみると、圧倒的に登山が多く、全体の77.9%を占めています。この中には、ハイキング、スキー登山、沢登り、岩登りも含まれています。そして山菜・茸採りが11.3%と意外と多いのも注目したいところです。

山菜・茸採りは登山道じゃない道に入ったり、GPS機器を持っている割合が少なそうに思うから、危険度が増す気がするよ。

態様別山岳遭難者構成比の推移

出典:警察庁

この表は、遭難した原因を示したグラフになります。令和3年度は道迷いが41.5%と最も多く、次いで転倒が16.6%、滑落が16.1%、病気が7.1%、疲労が6.6%となっています。どの年もほぼ同じ割合で推移しています。

最近は、スマホでGPSや登山アプリを利用する人が増えたと思うのですが、過去5年を見てもそれほど道迷いが減っていません。GPS付き携帯電話は紙地図の替わりになったり、万一遭難した時には救助要請手段として有効ですが、バッテリーが落ちてしまえば地図は見れなくなりますし、自分の位置を知らせることもできません。また、通話エリアが圏外になる場所では電話での救助要請ができなくなるので注意が必要です。

スマホに頼り過ぎず、予備バッテリー、紙地図、コンパスを携帯することが大事なのね。

年齢層別山岳遭難者構成比の推移

出典:警察庁

この表は過去5年間の年齢別に見た山岳遭難者の構成比です。令和3年は、70代が22.8%と最も多く、次いで60代が18.6%、50代が16.7%、40代が13.4%、20代が8.0%、30代が7.4%、80代が6.7%、20歳未満が6.0%、90歳以上が0.2%という結果でした。

出典:警察庁

そしてこちらは、年齢層別山岳遭難者(死者・行方不明者)の構成比です。令和3年は、70代が36.0%と最も多く、次いで60代が21.6%、80代が13.8%、50代が12.7%、40代が8.5%、30代が4.6%、20代が2.1%、90代が0.4%という結果でした。

両グラフを見ると、遭難件数も死者・行方不明者数も中高年の遭難が多いです。高齢になってくると筋力・体力の衰えが始まりますし、平衡感覚や視力も弱くなってきます。山登りは自然を満喫できて心身ともにリフレッシュできる健康的な趣味ですが、日頃から適度な筋力トレーニングをしておかないと転倒しただけでねん挫や骨折をすることもありますし、基礎疾患が原因で脳梗塞や心筋梗塞などを発病する危険性もあります。若い時に登っていた人が、昔と同じ気持ちで無理をしてしまう返り咲き派も要注意です。

シニア世代は日頃の健康観察、ストレッチ運動が必要です。長いブランクがある人は昔の体力を過信しすぎないようにしましょう。

ここでもうひとつ注目したいのは、過去5年間の死者・行方不明者は、70代と80代は増加傾向にあり、60代は減少傾向にあることです。単純に70~80代の登山者が増えたことが原因でしょうか?もしかしたら、GPS付き携帯電話や登山アプリを使いこなせていないことも要因のひとつかもしれません。文明の利器は若い世代には受け入れやすくても、シニア世代ではついていけない人もいます。かと言って、紙地図やコンパスによる読図ができる人も多くない印象です。認識力や判断力も弱くなってくるシニア世代。以下の3点に気をつけるようにしましょう。

シニア世代が気をつけたいこと

  • 地形図、山と高原地図などで事前に登山ルートをしっかり頭に入れておきましょう。
  • インターネットや登山サイト(ヤマレコ・YAMAP)で他の人の最新記録を読み、自分の体力にあっているかチェックするとともに、登山道の最新情報を入手しましょう。
  • 複数登山では、ただついていくだけの登山者にならないようにしましょう。

単独登山者の遭難状況

出典:警察庁

次に、単独登山者の遭難状況を表とグラフで見てみます。一番下のグラフは複数登山者の遭難状況です。令和3年は、単独遭難者1282人のうち、死者・行方不明者は174人で13.6%を占めていて、複数登山者の死者・行方不明者の割合6.1%と比較すると7.5ポイント高くなっています。また、死者数の割合とともに、行方不明者の割合も複数登山者に比べて高いのが分かります。

単独登山では、トラブル発生時の対処が複数登山に比べて難しくなるため、より一層の装備、知識、体力が必要になってきます。メジャーな山ならたまたま通りがかった人に助けを求めることができますが、平日のマイナーな山だと、誰とも出会わないことがあります。登山届の提出や家族に行き先を伝えていくことが最も重要です。

ちなみに、行方不明になってしまった場合、亡くなっていても死亡確認がされないので生命保険がすぐには下りません。7年経てば家庭裁判所に申し立てることで失踪扱いとなり保険金が支払われますが、それまでの間は保険料を払い続ける必要があります。また、保険を解約する方法もありますが、遭難者本人が契約者の場合、委任状がある場合を除いて本人以外は解約ができません。その場合も、家庭裁判所に申し立てて財産管理人を選定してもらう必要があります。どちらにしても面倒な手続きが必要になってしまうのでご注意ください。

通信手段の使用状況

出典:警察庁

令和3年は、山岳遭難者2635人のうち、82.0%が遭難現場から通信手段(携帯電話・無線)を使用して救助を要請しています。今や、携帯電話は登山において強い味方になっていますね。使用なしには「圏外、バッテリー切れ」が含まれていますので、圏外から圏内へ歩いて移動できるか?予備のバッテリーを持っているか?が大きなカギとなりそうです。「複数登山」「装備」の重要性が見えてきますね。

山岳遭難防止対策

上記の山岳遭難状況を知ったところで、ここからは実際に自分達がどのような防止対策をするべきなのかについて考えてみたいと思います。

山岳遭難の多くは、不十分な装備、知識・経験・体力不足、無理な計画などが原因で発生しています。山岳遭難を防ぐために、次に揚げる点に留意しましょう。

装備編

装備を万全に整えることは、遭難を未然に防ぐための基本的な対策となります。備えあれば憂いなし。

服装とギア

山の気候や行程に合った服装(レインウェア、化繊の衣類など)、登山靴、ザック、ヘッドランプ、ヘルメット、トレッキングポール、アイゼン、ピッケルなどを準備するとともに、的確に使いこなせるよう前もって使い方を習得しておきましょう。

通信機器

万一遭難した時に助けを呼ぶための、携帯電話や無線機、予備バッテリーは必ず持ちましょう。

GPS付きの携帯電話は、自分の居場所を警察や救助機関に的確に伝えることができるので、救助要請手段として有効です。しかし、山岳エリアでは電話が繋がらなかったり、低温時(0℃以下)はバッテリー落ちが早まったり、携帯そのものが使えなくなったりするので注意が必要です。予備バッテリーとともに保温のためのカイロを持って行くと安心です。

もしもの時のためのビバーク用ツェルト

万が一アクシデントに遭って停滞を余儀なくされる時、あなたを助けてくれるのがビバーク用のツェルトです。ツェルトはテントのようなグランドシートはありませんが、風や雨、寒さからあなたの体をガードしてくれます。軽量でコンパクトなので、ザックの隅に忍ばせておけます。

出典:amazon

finetrackの1~2人用のツエルト1 OG。ビバーク時には何とか成人2人が寝ることができ、座って待避・休憩する場合には3~4人で被ることができます。 緊急時には救助用のシートとしても使用できる必要十分な強度も備えます。もしもの時のためのお守り代わりで持って行くと安心です。重量230g。収納時サイズ:9.5×4.5×14cm。

出典:amazon

一人用では、ライペンビバークツェルト・ソロが人気の商品です。アライテント製なので防水性、耐久性ともに安心で、重量も105gと軽量です。こちらは雨天時のポンチョとしても使えます。

出典:アライテント

ツェルトはただ持っているだけでは十分に活用させることはできません。事前に正しい使い方を習得しておくことで、いざという時慌てずに行動することができます。ツェルトに加えて細引き、傘、ポールなどのギアが役立ちます。

非常食は準備していますか?

行動食、水はもちろん、万一遭難した時のために非常食も携帯しましょう。非常食とは長期間保存ができ、軽くてかさばらず栄養価の高い防災食に近い食材です。カロリーメイトやソイジョイのようなバランス栄養食、糖質(羊羹や固形ブドウ糖)、脂質(ナッツ類)、タンパク質(小魚の燻製やビーフジャーキー)などをミックスして携帯するのがおススメです。箱や袋から出せるものは出して、ジップロックなどに入れておきましょう。

いざという時に持っていると便利な小物

携帯用ナイフ・ハサミ

出典:amazon

ビニール袋を開けたり、キネシオテープを切ったりするのに使える携帯用ナイフは、登山だけでなくキャンプや仕事にも重宝します。ビクトリノックスの収納式小型ナイフは、マニア心をくすぐるギアのひとつ。ハサミは小さくても切れ味は抜群です。重さは僅か81g。パーツの数や種類もいろいろ選べますよ。私はカラビナに付けてザックにぶら下げていますが、これまで何度もお世話になっている、持っててよかったと思えるギアです。

簡易浄水器

出典:amazon

水場や山小屋のお水、飲みたいけどお腹壊さないか心配!遭難して川の水しか飲むものがなくなった!そんな時にこのソーヤーミニ SP128があると便利です。登山者が多く使っており、重量わずか100g。バクテリア(コレラ菌、ボツリヌス菌、チフス菌、アメーバ赤痢菌、レンサ球菌、サルモネラ菌)、微生物(ジアルジア、クリプトスポリジウム、サイクロスポラ)を99.9999% 除菌、除去してくれるので安心です。(川の水はそのまま飲むとお腹を壊すことがあるのでおススメしません)

その他あると便利な小物

  • くつひも・細引き(登山靴の予備ひもや何かを縛ったりできる)
  • マッチorライター(バーナーが点かない時、火をおこしたい時)
  • 鏡(救助隊に自分の位置を知らせる)

知識編

天候に関する不適切な判断や、体力的に無理な計画を立てるなど、山に関する知識不足が原因でも遭難が発生しています。初心者だけでの登山はなるべく避け、信頼できるリーダーを中心とした複数登山を心がけるとともに、以下の点に注意して山に関する知識を習得しましょう。

気象条件

山の雷ほど怖いものはありません。標高の高い稜線上では周辺に何もないことが多く、隠れるものがありません。雷は高い所だけでなくどこにでも落ちる可能性があります。雷鳴が聴こえたらすぐに付近の山小屋へ避難しましょう。山小屋がない場合は、少しでも低い場所に下る、高い木や尖った岩稜のそばには近づかない、両足を閉じてしゃがみ耳をふさぐ、などの対策をして雷が遠ざかるのを待ちましょう。夏の午後から夕方にかけて雷の発生率が高まりますので、早出早着に努めましょう。

標高と気温の関係

標高が100m上がれば気温が0.6℃下がります。例えば、地上が25℃の場合、3000mの山頂では7℃です。夏だから軽装で大丈夫だろうと防寒着を持っていかないと、山頂で低体温症になる可能性があります。

風速と体感温度の関係

風速が1m上がれば体感温度は1℃下がると言われています。気温0℃でも、風速が10mあれば体感温度はー10℃です。特に稜線上は風を遮る樹木がないことが多いので、しっかりとした防風防寒対策が必要です。

放射冷却

冬は風が弱くても朝方晴れていると、地表の熱が奪われる放射冷却により気温が極端に下がります。風が弱いと喜んでばかりもいられません。天気予報をこまめにチェックし、朝の最低気温に注意しましょう。

山の天気を見られるサイトがあります。気象台の注意報・警報も参考にして、無理のない山行を心がけましょう。

道迷い防止対策

道に迷った時の鉄則とは?

踏み跡が急になくなった、浮石が多くなった、道標が見当たらない、草木が体に頻繁に当たるなど、道を間違えたと感じた時は、すみやかに来た道を引き返し、分岐点まで戻るのが鉄則です。来た道が分からない時は、決して下らずに登ってください。登れば稜線に出て登山道に復帰できることがあります。稜線上は救助を要請した時も見つけてもらいやすく、携帯電波も通じやすいです。下ってしまうと沢や急峻な崖に遭遇し、身動きが取れなくなる可能性があります。迷ってしまう原因は、

  • ケモノ道を登山道と間違えてしまう
  • 右左折するべき分岐点で、気付かずに直進してしまう
  • 道標を見落としてしまう(歩くスピードが速く、下を向きがちな下山時に多い)
  • 休憩した後で進むべき方向が分からなくなる

などです。特に下山時は道迷いが発生しやすいため、頻繁に地図を見て自分の位置を確認することです。迷いやすい地点には木の枝でバリケードを作ってあったりしますので、見逃さないようにしましょう。私の経験では、意外と複数登山でも道を間違えやすいです。なぜなら、おしゃべりに夢中になって道標を見逃してしまうからです(女性あるある)。逆に、単独の時は緊張感があるので、より注意深く周囲を見渡したり地図を確認したりしていますね。

もし道に迷った時は、一旦息を整えて落ち着きましょう。人間は予期せぬことが起こると「何とかなるだろう」「自分は大丈夫」と正常バイアスが働き、危機感を感じないふりをしようとします。その結果、引き返す判断が遅れ、最悪の事態に繋がってしまいます。

登山アプリのススメ

道迷いを防ぐためには、自分が今どこにいるのかを頻繁にチェックしておくことが何よりも大事です。そんな時に登山アプリは非常に有効です。事前に行きたいエリアの地図を自宅やwifi通信下でダウンロードし、登山口でアプリを開きスタート。行動中は常に自分の現在地がわかるので、道迷いの可能性がぐっと減ります。山の中は圏外になるのでは?と心配される方がいますが、登山地図はGPS(衛星の電波)を使っているので、スマホが圏外でも使えます。山に登る人を対象としたコミュニティの役割もあり、以下のような様々なメリットがあります。

  • 登山記録を残すことができます。また、他の人の登山記録も見ることができます。ヒヤリハット体験を読めたり、登山ルートや歩程時間などを参考にしてMYルートを作ったりできるので、安全登山に繋げられます。
  • 行きたい山の最新情報が分かります。台風被害による登山道の通行止めや、クマ出没情報などを事前に他の人の登山記録で知ることができます。
  • 登山に関する疑問を掲示板に書き込むと、経験者からアドバイスを貰えます。また、おすすめのギアや山めしレシピなどの情報も参考になります。
  • 登山アプリで作った登山計画書を家族や友人と共有できたり、登山届けをオンラインで提出できます。
  • 山で会った人とアプリ内で再会できます。コメントやメッセージを送ることができ、山友達を作ることができます。

登山アプリでよく使われているのは、「ヤマレコ」「YAMAP」です。どちらもインストール・会員登録は無料で、すぐに使うことが出来ます。ただ、無料版は使える機能に制限がありますので、頻繁に登山をする人は有料版にしたほうが使い勝手は非常に良くなります。私はヤマレコを有料版で使用しており、YAMAPを無料版でサブ的に使用しています。 

ヤマレコYAMAP
利用料金プラン無料 総容量1GB迄
有料 550円/月(20GB迄)
   3,400円/年(20GB迄)
   10,500円/年(100GB迄)
   21,000円/年(300GB迄)
無料
有料 780円/月
   5,700円/年

※1ヶ月の無料体験あり
山行計画書作成無料 〇(2件迄) 有料 〇無料 〇 有料 〇
登山地図のDL無料 〇(同時に2枚迄)有料 〇無料 〇(2枚迄/月) 有料 〇
登山記録を書く無料 〇 有料 〇無料 〇 有料 〇
山行計画書の提出無料 × 有料 〇無料 × 有料 〇
登録写真容量無料 100MB/月 有料 〇無料 50枚/1日記 有料 〇 
広告非表示無料 × 有料 〇YAMAPストア広告あり
他の登山者の軌跡利用無料 × 有料 〇無料 × 有料 〇
ルート外れ警告無料 × 有料 〇無料 × 有料 〇
山岳保険チーム安全登山(別料金)なし
天気予報ヤマテン(別料金)無料 〇(1日毎) 有料 〇(1時間毎)
2023年1月現在

表のようにヤマレコもYAMAPも独自の便利機能がたくさんあるので、登山の力強い味方となってくれるでしょう。どちらが自分に合っているのかは人それぞれ。試しに無料版から使ってみるのが良いかと思います。

地図読みができるようになろう

地図読み(読図とも言う)は、何か難しそうなイメージがあって、自分から積極的に働き掛けないと、なかなか勉強する機会に巡り合えません。ですが、登山をする上で基礎的な知識だけでも習っておくと、いざという時に大きな武器になります。せめて基本的な等高線、尾根、谷、崖などが読めるくらいにはなりましょう。そして実際に紙地図とコンパスで歩いてみると意外と楽しく、遠くの山を特定できたりします(山座同定)。まずは紙地図を入手してみましょう。

紙地図の入手方法

山歩きの地図読みでは、国土の基本図である国土交通省国土地理院の地形図を使用します。地形図は登山に役立つ情報が満載です。地形図が読みこなせるようになると、登山道の変動を予測できたり、コース周辺の風景を予測できるようになります。とりわけGPS機器を失った時の大切な代替装備になるでしょう。入手するにはいくつかの方法がありますのでご紹介します。

  • 国土地理院 ▶地図読みで使われる国土地理院の2万5千分の1の地形図は、大型書店で購入できますが、範囲や大きさは決まっています(A2版に近い)。任意の狭い領域でよければ、国土地理院のサイトで無料でプリントアウトできます。
  • 日本地図センター ▶国土地理院の2万5千分の1の地形図が近くの書店にない場合は、日本地図センターでネット購入できます。販売店一覧検索もできるので、まずは近くの書店に置いてないか調べてみましょう。地図読み講座に参加する場合は、正規の地形図が必要になるので、こちらで入手しましょう。
  • 電子地形図25000オンライン ▶国土地理院の新しい地形図です。自分の欲しいエリアを欲しい大きさでカスタマイズして購入することができます。サイズはA0~A4で価格もお手頃。但し、印刷物ではなく画像データでの購入なので注意。自分でプリントアウトして使用します。
  • カシミール3D ▶ 国土地理院の地形図をはじめとした、様々な地図を無料でダウンロードできる個人が配布しているフリーソフト(一部有料)。自身のPCにインストールすれば、いつでも行きたいエリアの地形図をプリントアウトできます。スマホ版(一部課金あり)もあります(スーパー地形)。登山地図だけなら無料版の平面図で十分かと思います。
  • 山と高原地図 ▶登山、ハイキング用の定番とも言える山地図。書店やネット書店で購入できます。主な山域エリアごとに登山コース、所要時間、山小屋、水場、危険箇所などが書かれ、毎年最新版が更新されるので安心。地図読みの精度はあまり良くありませんが、計画時の参考地図にはおススメ。但し、マイナーな山は載ってないので注意。

登山用のコンパス携帯しよう

suunto
出典:amazon

登山用のコンパスは、ベースプレートコンパスと言い、地図の上に置いて使用します。各社から同様のものが販売されていますが、正確さの点ではSUUNTO(スント)がフィールドコンパスのトップブランドなので安心して使えます。他にはシルバのコンパスも人気です。緊急用としてザックに入れておきたいですね。

地図読み習得方法

道具が揃ったら地図読み体験をしてみましょう!地図読みを習得する方法には、以下のような手段があります。

  • 登山ショップが開催している地図読み講習会に参加する。モンベルの山歩き講習会に「初めての地図読み編」があります。初心者を対象としていて、誰でも参加できます。実際にフィールドを歩きながら、地図読みの基本知識を教えてもらえるので、とても分かりやすくおススメです。地域は限られますが、石井スポーツの登山学校にも「地図読み講習(机上・実技)」があります。
  • 地図読みの書籍から学ぶ。▶初歩から実践まで、わかりやすく書いた書籍がたくさんあります。講習会で地図読みを教わっても、時間が経つと忘れてしまうもの(私のこと)。そんな時、手元に本があればいつでも復習することができます。

私が所持しているのは、「学べる!山歩きの地図読み」(著:佐々木亨)です。地図読みの入門書とも言える一冊。地図読みからコンパスの使い方まで基礎的な知識が学べます。図や写真もたくさんあって、初心者にも解りやすく書かれています。

登山計画書(登山届)を作成しよう

登山計画書(登山届)とは、登山前に作成し、事前に管轄警察署、登山ポスト、ネットワーク団体(コンパスetc)、家族などに提出する書類のことを言います。決まった書式はなく、紙媒体の場合は行く山の県警サイトで様式(excelやPDF)をダウンロードして記入したり、登山口に用紙が置いてある場合はそこで記入して提出したりします。今はインターネット経由で提出することもできますので、フォームに必要事項を記入していくだけで登山計画書が作成できます。登山届を出しておけば、万一遭難した時に、救助隊に重要な手がかりや有効な情報を伝えることができ、早期の発見・救助につながります。

記入する内容は、おもに以下の項目です。

  • 主な山岳の名称
  • 氏名・生年月日・性別・住所・緊急連絡先・山岳保険加入の有無
  • 入山日、下山日
  • パーティー人数
  • 行動予定
  • 装備品

つまり、「いつ、どこへ、誰と、こんな持ち物を持ち、このようなルートで登りますよ~」というような書類になります。内容は省略化せず正確に記入しましょう。これを3部コピーし、一部は警察や自治体に提出、一部は家族に、一部は自分用としましょう。

登山計画書(登山届)の記入例
出典:長野県警

表は、長野県警に宛てた登山計画書の記入例です。登山計画書は遭難活動対策のほか、持ち物の不備や、無理なコース配分に気付けたりしますので、安全登山をするためにも作成する癖をつけておくといいでしょう。

登山計画書(登山届)の提出方法
登山届

登山計画書(登山届)を提出する方法はいくつかあります。

  1. 登山口のポストに提出する。(家族にも行き先を伝えておく必要があります)
  2. 登る山の管轄県警の地域課に郵送1、または電子申請サービスを利用してネット経由で提出する。
  3. 全国オンライン登山届「コンパス」で登山計画を作り、そのままネット経由で提出する。(登る山の管轄県警に提出する必要がなくなります。但しコンパスと協定を結んでいない県に行く場合は、2.をお選びください)
  4. 登山アプリ「YAMAP」で登山計画書を作り、「コンパス」に提出する。
  5. 登山アプリ「ヤマレコ」で登山計画書を作り、「ヤマレコ下山連絡システム※2」や「コンパス」に提出する。

※1警察に郵送する場合は、1週間程度の余裕をもって提出するようにしましょう。直前に送っても、土日などは警察のほうで処理できない事があります。

※2「ヤマレコ下山連絡システム」は、ヤマレコと緊急連絡先のみの共有システムで、警察・自治体との共有はありません。

上記の中で一番楽な方法は、3.のコンパスで登山計画を作り、そのまま提出する かと思います。

コンパスとは? ▶オンラインで全国の山の登山計画書(登山届)が出せます。提出した登山計画書はコンパスのサーバーに置かれ、緊急連絡先の家族(友人)、警察・自治体と共有されます。本人は下山したら下山通知を行います。本人が指定した時間(任意で決められる)までに下山通知がない場合は、家族が警察・自治体に連絡→警察・自治体がコンパスのサーバーを閲覧する、という流れです。紙の登山届に比べて、迅速に救助・捜索活動が始められるのが特長です。

コンパスでできること ▶登山計画書の作成 / 登山ルートの作成 / 地図のダウンロード / 登山計画書の提出 / 下山通知 / てるぼうず閲覧(天気予報) / 登山記録の作成 etc

コンパスはwebもアプリもありますが、アプリが使いやすくて便利です。基本無料で使えますが、有料のプレミアム版もあります。コンパスを使用する際は会員登録が必要です。

山と自然ネットワーク コンパス(web版)

山と自然ネットワーク コンパスEXPERT(スマートフォンアプリ)

また、日頃から登山アプリ(YAMAP・ヤマレコ)を使っている方なら、4.5.の登山アプリで計画を作成後、登山アプリ経由でコンパスに登山届を提出するほうが山行記録も蓄積されるのでいいでしょう。

まとめ

ここまでご覧いただきありがとうございました!盛りだくさんな内容になってしまいましたが、あらためて遭難対策を挙げてみると多くの気付きがありました。遭難してしまう原因は一つとは限らず、いくつかの要素が重なって起こってしまうこともあるということです。装備の不備や故障、年齢、天候、発病、登山届の不提出など、いくら遭難対策をしていても防ぎきれない時もあるかもしれません。それでも、もしもの時のために、今自分が出来る最大限のことをしていかなければならないと感じました。あなたはどこまで対策をしていますか?

それではこれからも楽しい山歩きを!

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